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「知らない、とは言わせない」

やや古い記事なんですが、「女工哀歌(エレジー)」という映画について、監督のミカ・X・ペレド氏のインタビュー記事を見つけたので転載します。
中国にも労働基準法はあり、しかしそれに準ずる操業を行っていては「競争に勝てない」と工場の経営者は言う。
しかし、コスト削減が労働者の長時間労働・低賃金にまで及んだとき、たいていは労働環境の悪化だけでおさまらない状況になっている。
工場であれば排煙や排水などの環境対策設備がおろそかになり、労働者や周辺住民の健康被害を引き起こす。排水は海に流れ込み、大気汚染物質は偏西風に乗ってけっきょくは「消費者」であるわたしたちのところへも届く。
これはジーパンだけの問題ではない。
安売りされているその製品は、どのようにつくられ、わたしたちの手元に届いているのか。その結果、どんなことが起こりうるのか。すこし立ち止まって考えてみる時間があっても良いだろう。
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映画インタビュー : 「女工哀歌(エレジー)」ミカ・X・ペレド監督に聞く
「知らない、とは言わせない」(毎日新聞) [2008年09月27日(土)]

http://mainichi.jp/enta/geinou/graph/200809/27/index.html

「女工哀歌(エレジー)」のミカ・X・ペレド監督

中国でのジーンズ生産過程を題材に、グローバリゼーションとは何かを問い直す
ドキュメンタリー映画「女工哀歌(エレジー)」。
労働条件の劣悪さのみを強調するのではなく、登場人物を等身大に描き、他人事として
看過できないと思わせる。

「知らなかった、とは言えないようにしたい」と話すミカ・X・ペレド監督に聞いた。
【岡本同世】

◇ 統計の数字ではなく、人間を描いた

16歳の少女ジャスミンは四川省の親元を遠く離れ、広東省にあるジーンズ縫製工場の寮で暮らす。
繁忙期の就労時間は朝8時から翌日の3時まで。
食費や、外出などによる罰金も給料から天引きされるうえ、工場側の利益を最優先する経営方針で遅配が相次ぐ。
見ている方がぐったりしてしまうような毎日だが、日記をつけ、仲間とは「こんな大きなジーンズをいったい誰が履くんだろう」と、好奇心を膨らませる。

--過酷な状況の中でも、1人ひとりがとても生き生きと描かれていました。これはあらかじめ意図した手法なのでしょうか?

ペレド監督 彼女らをただの「犠牲者」には見せたくなかった。
ユーモアがあり、将来の夢を抱いて、感情を持つ、隣人として描きたかった。
彼らは人間です。統計の数字じゃない。

もし私が「中国では1億人が搾取的な状況下で働かされています」と言えば、
「それはひどい」と思うくらいでしょう。

でも「ジャスミンが何時間もひどい環境で働かされていることを知るべきだ」と言えば、
「そんなことはとても認められない」
となり、この状況を変えなければいけないと気づくはず。
そういう変化を起こしたいと思っています。

そのために、感情をかきたてるような映画にする必要がありました。
もしこの映画が、
「労働者が毎日朝から晩までひどい目に遭わされている。どれだけひどいか見せてあげよう」
というものなら、見る側は
「もう十分。分かったよ」となってしまいます。

そうではなく、ずっと関心を引きつけたければ、何か興味が持てる要素を入れなくてはいけない。ラブストーリーとかね。
そうすると、観客はもっと彼らの人生に入り込めるようになります。
「フィクション作品をつくればいいのに」という人もいますが、
私は「現実はフィクションよりもエキサイティングなんだ」
と答えています。

--確かに、映画にはジャスミンの先輩女子工員がボーイフレンドと故郷で過ごす、とても美しい場面がありますね。

ペレド監督 どんな脚本家もあんなふうに描くことはできなかったと思います。

--「構成がよくできすぎていて、ドキュメンタリーではなく劇映画のようだ」というレビューもありました。

ペレド監督 意図的にそうしました。例えば他の国で作品を公開した時のポスターは、ジャスミンの横顔を女優のように大きくあしらい、フィクション映画のように作ってあります。

搾取的な労働の問題に無関心な人でも、中国の若い女の子についての映画なら観るかもしれませんから。これも観客をストーリーに引き寄せる工夫です。

中国国内での撮影には政府の許可が必要だ。また、工場の環境は、外部に胸を張って公開できるものではない。

--どうやって彼女らに出演するよう説得したのですか?

ペレド監督 (出演交渉は)とても簡単でした。工場の経営者が「みんな協力するように」と言ってくれたのです。

彼には撮影について、私が
「中国の起業家の第一世代にインタビューしたいんです。彼らは勤勉でリスクを恐れず、中国を自由経済にシフトさせ、雇用を作り出している」
と話したら、すぐに協力してくれました。

監視を避けるため、政府の許可は得ずに撮影しています。
警察にフィルムを没収されたり、撮影していたエリアから出て行くように言われたこともあります。

一番怖かったことは映画を完成させられないのではないか、関係した人々に危害が及ぶのではないかということでした。

◇ 消費者には力がある

少女らを直接管理し、休みなく働かせるのは現場の監督であり、工場経営者だ。しかしそうさせるのは、商品を買い叩く大手小売業者の存在。さらにその先には、少しでも安い品物を待つ消費者がいる。
消費者は、状況を変えるために何ができるのだろう。

ペレド監督 消費者は大きな力を持っています。「スエットショップ(労働搾取工場の意味。汗と衣料のsweatをかけている)」の服は買わないことを選択できるのです。

例えば、知識を持った消費者が「健康にいい」とオーガニック食品を選び、大きなスーパーマーケットにその棚が設置されるように。この映画に出てきたシステムを作り出しているのは、多国籍企業の小売業者です。彼らは消費者に(収入を)頼っているのですから。

--商品を買わないことが、労働者の雇用を妨げることにはならないでしょうか?

ペレド監督 ドイツでの例ですが、消費者がショップに出向いて「私たちはスエットショップの服はもういらない」とアピールしたことがあります。

業者がスエットショップを経ずに作られた服を買う消費者の層がいることに気づき、自前の工場を持って、中国の労働法に沿った環境で商品を提供する。それがファッションのトレンドになればいい。

値段は少し上がるでしょうが、大した上げ幅ではありません。商品のジーンズ卸値の4ドル中1ドル(を15、6人で頭割りにした金額)が彼女らの収入です。収入を倍にしたとしてもプラス1ドル。さらにいい環境にするためにもう1ドル上げても合計2ドル分多く払うだけです。

◇ 「グローバリゼーション」は私たち自身の問題

--この映画を通して一番伝えたかったことは。

ペレド監督 金融や統計など複雑なものとして考えがちな「グローバリゼーション」(という概念)に、人間の顔を与えたかった。世界はグローバリゼーションを通して大きく変わっていますが、皆その実態を理解できていない。

たとえば新聞で「中国の奇跡的な経済成長」についての記事を目にしても、その裏で何が起きているのか見えない。それが私たちと離れたところにあるのではなく、皆が消費者として、かかわっているのだと言いたかったのです。

こういった(労働者が搾取される)状況は19世紀の西洋社会でも起きていましたが、当時は隠されていました。現在はカメラがあり、状況を伝えることができます。

一度見てしまえば、「知らなかった。私のお金の力でそんなことが起きているなんて」
とは言えません。

本作品はグローバリゼーションをテーマとした3部作の2作目に当たる。
1作目は、世界的な小売大手ウォルマートを取り上げた。
次回作では中国に綿を輸出しているインドの綿花農家を取り上げる。
米資本の種苗会社にさまざまな方法で搾取され、自殺する農民も多いという。

「グローバリゼーション」を監督の言葉で定義してもらった。

「今日、我々がどれだけ地球の向こう側の人に影響を与えているか、ということです。たとえ意識していなくてもね」

人件費が安い中国で大量生産し、大幅にコストカットして私たちの手に届く「お買い得品」。
映画は「メード・イン・チャイナ」のタグの向こうにいるジャスミンたちと、私たちをつないでいる。

*……「女工哀歌(エレジー)」は2008年9月27日から
東京・渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開。

<ミカ・X・ペレド監督プロフィル>
1952年スイス生まれ。イスラエルで育ち、輸入業、教師、ガードマン、ジャーナリスト、原子炉スタッフなどを経験し、ドキュメンタリー映画監督となる。
92年に制作した初めての映画
「Will My Mother Go Back To Berlin?」がベルリン国際映画祭で上映され、
ハワイ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。
続く 「Inside God’s Bunker」(94年)は欧米、オーストラリアで公開され、日本でもNHKが放映した。

本作品「女工(哀歌)エレジー」(05年)は、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で
アムネスティ・ヒューマン・ライツ・アワードを受賞している。

【関連リンク】
「女工哀歌(エレジー)」公式サイト
http://www.espace-sarou.co.jp/jokou/index2.html

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