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大石公園のアカギ

近所の大石公園にはアカギが生えている。鬱蒼とした原風景を残すゾーンには大木が何本か、それから風のよく通る公園の周回路沿いにも、ランドマークのように立派なアカギが一本生えている。

私はこのアカギの木の下で深呼吸をしてから体をほぐす体操を行い、本格的なウォーキングをするのが日課になっていた。

去年の台風では多くの葉が落ち、大きな枝が幹近くからごっそりと折れたりして、ずいぶん心配した。しかしアカギは程なく傷を覆うほどたくさんの新しい枝を伸ばし、葉は以前にも増して青々と茂った。私はその輝くばかりの若葉に目を奪われ、ただただ生命力の強さに驚いていた。

この木はまた、たくさんの命の交差点のような場所にもなっていた。キジバト、シロガシラ、イソヒヨドリ、スズメやメジロなどさまざまな鳥たちがこの木でさえずり、また羽を休めた。時には野猫が低い木の股でひとときのまどろみを楽しんでいた。カタツムリ、蛾の幼虫、アリ、クモ、そのほかたくさんの生きものたちの拠り所だった。そういう命の環を眺めるのが、ウォーキングの何よりの楽しみだった。

ところが数ヶ月前、公園に隣接する市営団地が解体されるのに伴って、工事の防塵・防音のために防護壁が作られ、このアカギもある日突然、防護壁の向こう側に囲われてしまった。いくらこのアカギが好きだと言っても、青い鉄板でできた無機質な壁を前に、騒音と埃の中で深呼吸する気にはなれない。仕方なく私は同じ公園内の広場に生えているデイゴの木の下でこれまで通り軽い体操をすることにした。

解体作業はいつかは終わる。防護壁がなくなってアカギの下でまた鳥のさえずりと木漏れ日を感じながら深呼吸できる日を楽しみにしていた。

しかし、昨日のことだ。公園の周回路をいつものように歩きながら我が目を疑った。防護壁の上にこんもりと茂っていたあのアカギの緑の塊がなくなっていたのだ。防護壁の上には直接空虚な灰色の空が広がっていた。

リズミカルに動いていた足は途端に重くなった。心臓の動きまでが重苦しく感じられる。近寄ってみてみると、一抱えもあるアカギは、幹だけを残してすべての枝が切り落とされていた。無造作に落とされた大きな枝の一本が防護壁の向こう側に寄りかかるように立っているらしく、そのしおれかかった葉先が防護壁の上から少しだけこちら側にしなだれている。

かろうじて届いたその葉に触れながら、気づくと私は涙を流していた。あまりのショックにいつもは3~4周するウォーキングを1周目の途中で終わって帰ってきてしまった。

あのアカギは、どうしてあんな風に切られなければならなかったのか。あの木を拠り所にしていたたくさんの生きものたちはどうなったのか。あの木は回復できるのか。それとも幹まで根元から切られてしまうのだろうか。

だいたい、公園を管理している那覇市は何の権限があって木を切るのだ。公園利用者にも地域住民にも何の連絡も相談もなかった。そもそも那覇市に公園管理のビジョンはあるのか。無駄に頻繁に草刈りを行うために、公園中央にある丘の斜面はどんどん崩れている。斜面に這いつくばるように生えている在来の木は実に貴重な存在のはずなのに、草とともになぎ倒してしまう。一度崩れたところには草すらなかなか生えて来ない。ひとたび激しい雨が降れば露出した面はさらに拡大し、大きく崩壊を始める。

そうして崩れた面に緋寒桜なんかを植えている。そんなところに桜を植えたところでどれほど定着するのだろう。街路樹にしたってそうだ。雰囲気だけで樹種を選び、生育環境を考えず、まるで枯らすために植えているような例をよく見る。税金は無駄になるが、植木屋は儲かっていいと言うことか? 植えられた木のことを考えはしないのか?

いろんな疑問が大挙してきて急激に気分が悪くなってしまった。

ヨーロッパでは自分の庭に生えている木ですら勝手に切ることはできないと聞いたことがある。木は景観を形作るもので、地域の共有財産だという認識があるからだそうだ。

自分の敷地にあるものはなんでも自分の勝手自由だという感性はいつ産まれたのか。「経済至上主義」や「効率最優先」という信仰はいつごろからまかり通るようになったのか。季節のうつろいを愛で、命を慈しんだ文化はどこで消えたのか。土を守り、土地を有効活用した風水の思想はどこで断ち切られたのか。

一本の木にこの国と沖縄の縮図を見てしまった気がした旧暦の正月元旦。

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