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かりん

両手を広げれば道の両側の店に手が届きそうな小路。小さな間口の服や果物や雑貨の店は、やっと人とすれ違える道幅を残して台をせり出し、できるだけ目立つように売り物を並べている。にぎやかにおしゃべりしながら前を歩くおばちゃんたち。昔懐かしい下町っぽい市場。

買い物が一通り終わっていても、帰りにはつい足が向く通りだ。雰囲気を楽しみながら歩いていると、ふと懐かしい香りにつつまれ、黄金色の丸みを帯びた何かが目の端に飛び込んだ。一度通り過ぎてまた戻った。

かりんの実だった。

幼稚園のころだったと思う。父は森林植物園が好きで一人でもよく通っていたらしいが、そこでもらったと言って、うちに3個ばかり、かりんを持って帰ってきたことがあった。

甘い独特の香りがしたが、そのままでは食べられないのだと教えられた。その実の表面は蜜でねっとり湿っているのに、確かにとてもかたそうだった。

多分、一週間くらいその実は家にあった。昔の家の少し薄暗い畳の部屋で、香りはだんだん強くなっていったが、一方で色はだんだん褪せて茶色くなっていった。そのあと、母が実をどう処理したのかは知らない。

すっかり忘れていたそんな思い出が香りによって瞬時によみがえり、通り過ぎたのをついまた戻ってしまったのだった。

段ボール製の値札は「150円」。一個買ってみた。

30年以上前と同じ香りに包まれながら、今これを書いている。まさか、こんな風に思い出す日が来るなんて思いもしなかった。

明日あたり、カリン酒を漬けてみようか。それとも蜂蜜漬けにしようか? かりんは喉や咳にいいそうだ。

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コメント

かりんの蜂蜜漬け!

投稿: いたち | 2007年12月18日 (火) 22時13分

はいよ!

投稿: こあら | 2007年12月20日 (木) 18時12分

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